投影法(投映法)よる心理検査の特徴

投影とは

心理学における投影とは、自分のある資質や心の欲求を認めたくないときに、自分自身を守るため、防衛機能として他人にその悪い面を押し付けてしまう、責任転嫁のような行動を指します。普通は悪い面を指すことが多いですが、良い面の投影もあります。

投影法(心理検査)

人はあいまいで不安な状況におかれると、その状況を自分なりに意味づけしようとします。
こういった意味づけには、その人の意識的だけでなく心の奥の無意識の欲求や動機、葛藤などが反映されやすくなります。

この心の特徴を生かし、視覚的や言語的にあいまいな刺激をクライエントに提示して、それに対する自由な反応を手掛かりに、クライエントの心の中の動きや性格をとらえようとする方法が投影法です。

投影法の長所・メリット

投影法での質問にはクライエントはどのように答えても構わないという自由さから、決まった形の質問になっている質問紙法で起こりやすい検査への構え(自分の欠点などはみせたくないという心理など)や意図的な結果の操作が少なくなります。

また、他の調査ではとらえられない無意識水準の心の深層面まで触れて切り込むことが可能になります。

投影法の短所・デメリット

無意識の奥まで切り込めるという反面、その検査結果の分類や解釈に検査を行う医師やカウンセラーなどに高いスキルや熟練が求められること、またその解釈には医師やカウンセラーなど検査を行う人の主観が入りやすい点が課題となります。

主な投影法検査

代表的な投影法検査としては、ロールシャッハ・テスト、SCT(文章完成法テスト)、TAT(主観統覚検査)、P-Fスタディ、DAM(グッドイナフ人物画知能検査)、バウムテストなどがあります。

MPI(モーズレイ性格検査)と2つの次元の概要

MPI(モーズレイ性格検査)は1950年代にアイゼンクが開発した質問紙法のパーソナリティ検査です。

その特徴は、アイゼンクの性格理論にそって、人の性格を2つの次元からとらえるところにあります。

モーズレイ性格検査の2つの次元

N尺度(神経症的傾向)
E尺度(外向性-内向性傾向)

検査では、この2つの尺度各24項目に中性項目12、L尺度(虚偽発見尺度)20項目を加えて、合計80項目があります。

「はい」「いいえ」「どちらでもない」の3件法です。
16歳以上の成人に適用できます。

クライエントのパーソナリティ診断、心理葛藤や情緒状態の確認、性格把握など、様々な場面で活用されます。

NEO-PI-R検査とビックファイブ理論の概要

NEO-PI-R(NEO Personality Inventory Revised)はパーソナリティ検査のひとつです。
開発者はコスタ&マックレー。その特徴はビックファイブ理論にもとづき、人の特性の5次元を測定するというところにあります。

ビックファイブ理論

ビックファイブ理論とは、人の性格に関する学説で、人の個性は5つの因子によって分類することが出来るという理論です。この5つの因子をビックファイブの5因子と言います。

ビックファイブの5因子

Neuroticism(神経症的傾向)・・ストレスやネガティブな刺激に対する反応の強さ

Extraversion(外向性)・・積極性や社交性、行動的な態度。

Openness(開放性)・・知的好奇心があり、想像力や感受性が高く、新しいものや考えへの開かれた態度。

Agreauleness(調和性)・・他者への共感や協調性、配慮や思いやりの態度。

Conscientiousness(誠実性)・・良心や達成力、責任感の強さ、精神のコントロール力の強さ。

NEO-PL-R検査の項目数と下位尺度

NEO-PL-Rは240項目からなり、「非常にそうだ」「そうだ」「どちらでもない」「そうでない」「全くそうでない」の5件法の尺度です。
5因子それぞれの下位尺度は以下のように6つづつになっています。

・N(神経症的傾向):不安、敵意、抑うつ、自意識、衝動性、傷つきやすさ
・E(外交性):暖かさ、群居性、断交性、行動性、刺激希求性、よい感情
・O(開放性):空想、審美性、感情、行為、アイディア、価値
・A(調和性):信頼、実直さ、利他性、応諾、慎み深さ、優しさ
・C(誠実性):コンピテンス、秩序、良心性、達成追及、自己鍛錬、慎重さ

この5×6の合計30の特性から、個人のパーソナリティを詳細に分析することが出来るのがNEO-PL-Rの最大の特徴です。

不安検査(MAS・STAI・LSAS-J・CAS)の概要

心理検査・質問紙法の中で、不安症状や傾向を測定するものを紹介します。

MAS(顕在性不安尺度)

テーラーMMPI(ミネソタ多面人格目録)の中の50項目を中心にして作成した、不安を測定するための検査です。
日本語版では、L尺度15項目を加えた65項目で構成されています。

顕在性不安とは、自分自身で身体的・心理的な不安の兆候が意識化されたものを指します。

適用範囲は中学生以上ですが、児童用(CMAS)も作成されています。

「心配ごとで眠れぬようなことがあるか」といったような質問から構成されていて、日本語版ではI~V段階に得点化されます。

STAI(状態-特性不安検査)

スピルバーガーによって作成された不安を測定する検査です。

状態不安特性不安の両方を測定するのが特徴の検査です。

状態不安:今この瞬間に感じている不安。一時的な情緒状態であり、感情状態と生理反応からなります。

特性不安:普段感じている不安。不安状態に対する個人の反応傾向で、比較的安定した性格傾向を意味します。

STAIにおいて、状態不安と特性不安の質問がそれぞれ20項目、全40項目から構成されます。

LSAS-J(リーボビッツ社交不安尺度)

リーボビッツによって考案された社会不安症を測定する尺度の日本語版です。

24項目の質問から構成され、重症度の評価が可能です。

CAS(不安測定性格検査)

キャッテルが作成した40項目の不安を測定する尺度です。適用対象は中学生~大学生となります。

エゴグラムとTEG(東大式エゴグラム)

エゴグラム

エゴグラムとはエリック・バーンの創始した交流分析における自我状態(P親、A大人、C子ども)をもとに、バーンの弟子であるデュセイが考案した性格診断法。
5つの自我状態にわけて、それぞれのバランスを視覚化したものです。

5つの自我状態

デュセイのエゴクラムでは次の5つの自我状態を設定しています。

・CP 批判的な親
・NP 養護的な親
・A 大人
・FC 自由奔放な子ども
・AC 順応した子ども

これら5つの自我状態が放出する心的エネルギーの高さをグラフ化したものです。

CPとは、厳しい心。自分の価値観を正しいものと信じて譲らず、責任を持ち、他人に批判的。

NPとは、寛容性。優しい心。愛情深く、思いやりがあり、世話好きで親切。この部分が低いと冷淡になる。

Aとは論理性。論理的で現実を重視し、聡明で合理的。この部分が低いと、非合理的な性格になる。

FCとは、奔放性。自由奔放で明るく好奇心旺盛。自我中心性で自己中心的。この部分が低いと閉鎖的で暗い性格。

ACとは順応性。協調的な心。他人の評価を気にする。言いたいことを言わないで我慢し、従順で遠慮がち。この部分が低いとマイペースな性格になる。

エゴグラムではこれらの数値を棒グラフや折線グラフで表します。

TEG(東大式エゴグラム)

TEGとは、上記のエゴグラムをもとに、1984年に東京大学医学部が開発したパーソナリティ検査です。

TEGは53問の質問項目からなり、「はい」「いいえ」「どちらでもない」の3件法で回答します。また、妥当性尺度があります。所要時間は10分ほどです。

MMPI ミネソタ多面的人格目録の概要

MMPI(Minnesota Multiphasic Personality Inventory)は、1943年にミネソタ大学のハサウェイとマッキンレーによって作成された550問からなるパーソナリティ検査です。

精神病理的な不適応を多面的に識別することにより、診断に役立つ目的で作成されました。新規傾向、うつ傾向、精神病質、ヒステリーなどの臨床尺度と、回答者の態度を測定する妥当性尺度から構成されています。信頼性が高くよく用いられる検査のひとつです。

適応年齢

MMPIの適応年齢は原版では16歳以上、新日本版では15歳以上(小学校卒業程度の読解力あり)となっています。

質問数と所要時間

MMPIの項目数は550項目であり、所要時間の目安は1時間です。略式版は263項目で、40分の目安となっています。

MMPIの尺度

4つの妥当性尺度
MMPIの妥当性尺度は、回答者の回答が歪曲されていないかを確認します。また妥当性尺度から回答者の現在の状態と解釈します。

「?尺度」妥当性の疑わしさの尺度
「L尺度」虚構の尺度。自分を好ましく見せる傾向。
「F尺度」精神障害の程度や非協力の傾向を示唆。
「K尺度」検査への警戒や自己防衛を示す。

10の臨床尺度
心気傾向、うつ傾向、精神病質、ヒステリーなどの尺度。健常群と臨床群のあいだで有意差が認められた質問項目で構成されているため、スクリーニング検査として有効。

矢田部ギルフォード性格検査(YG性格検査)の特徴

矢田部ギルフォード性格検査とはパーソナリティ検査の代表的なもので、ギルフォードとマーチンが作成した性格検査をモデルに矢田部達郎が再構成した性格検査です。

矢田部ギルフォード性格検査の特徴

矢田部ギルフォード性格検査の特徴は以下のようになります。

  • 12尺度から構成され、1尺度10問、全体で120項目の質問がある。
  • はい、いいえ、どちらでもないの3件法で、30分程度で簡単に出来る。
  • 採点も用意で、産業や教育分野で多く使われ先行研究が多い。
  • 質問を一定間隔で読み上げ、そのペースに合わせて回答するという強制速度法で行う。
  • 類型論的、多面的な評価が可能。
  • 回答の歪曲に弱い。

矢田部ギルフォード性格検査の尺度

12尺度6因子から構成され、前半6尺度は情緒性、後半6尺度は向性に関係しています。

6つの因子は①情緒不安定因子②社会不適応因子③活動性因子④衝動性因子⑤内省性因子⑥主導性因子に分かれそれぞれ2~3の尺度に分かれます。

矢田部ギルフォード性格検査の判定・解釈

検査の実施後、12個の各尺度の点数を計算しプロフィール判定を行います。

プロフィール判定は5つの類型に分けられます。

5つの類型

A型:平均型 平均的な性格。

B型:不安定積極型 情緒が不安定で社会的に不適応。活動的で外向的。

C型:安定消極型 情緒安定で社会的に適応しているが積極性にかけ内向的。

D型:安定積極型 情緒が安定して社会適応、活動性も高く好ましい性格。

E型 不安定消極型 情緒が不安定で消極的、内向的。

典型A型、準型A´ 混合ACなどにも分かれます。

質問紙法での心理検査とその長所短所について

質問紙法とは

心理検査で用いられる手法で、紙面に多くの質問事項が記載され、クライエントに回答を求める手法です。

二件法では「はい」「いいえ」、三件法では「はい」「いいえ」「どちらでもない」などの選択肢が用いられます。こういった選択肢で回答する形式と、自由に記述する自由記述法があります。

質問紙法の長所と短所

長所としては、一度に多くの相手を対象と出来る集団実施が可能という点、結果の集計や統計処理が容易という点があげられます。

短所としては、その回答が社会的望ましさや虚偽によって歪曲されやすいという点、クライエントの言語能力に依存してしまう、クライエントの行動過程や潜在意識まで捉えることが出来ないなどが挙げられます。

主な質問紙法

◇パーソナリティ検査

矢田部-ギルフォード性格検査(Y-G性格検査)

MMPI(ミネソタ多面的人格目録)

エゴグラム

◇不安検査

MAS(顕在性不安尺度)

STAI(状態-特性不安検査)

◇その他

CMI(コーネル健康調査票)

GHQ(精神健康調査票)

心理検査法とその長所と限界・診断と治療はともに進んでいる

カウンセリングにおける心理アセスメントにおいては、行動観察法、面接法、心理検査法の3つを主に用いてクライエントの方の様々な情報を収集し、見立てをし、理解や治療に役立てていくことになります。

心理検査法

心理検査とは、「人間の知能、パーソナリティ、発達、精神機能や心理状態がどのようなものであるかを知り、個人や集団を理解するための検査」になります。
観察法や面接法と併用することで、その2つだけでは判断出来ない側面から、クライエントのパーソナリティや課題を理解することが出来ます。

心理検査の種類とテスト・バッテリー

心理検査の方法は主に「質問紙法」「投映法」「作業検査法」の3種類があります。
それぞれに特徴があり、その検査の特徴を生かし、クライエントの多面的・重層的な理解をする必要があります。
この理解をするために複数の心理検査を組み合わせて実施することをテスト・バッテリーと言います。

心理検査の長所と限界

様々な心理検査が存在しますが、主な心理検査の長所と限界は以下のようになります。


長所

①個人のパーソナリティや能力について、目的別に、詳細かつ客観的に評価できる。

②観察や面接ではあいまいで評価しにくい面を明確化出来る。

③数値やプロフィールなどによって具体的に視覚化され、他者と共有されやすい。

④治療効果の評価が可能になる。

⑤検査の結果を通してクライエントの自己理解が促進される場合がある。

⑥投映法を用いることで、そのパーソナリティを力動的に理解出来る。

⑦描画法では、そのプロセスによってテスターとクライエントのコミュニケーションが活性化されて心理的な効果をもたらすことがある。


限界

①検査は被検者の一面を捉えているだけで、結果の過信はできない。

②検査結果はあくまで検査時点での情報であり、一般的な傾向とは言い切れない。

③検査時の状況や被検者の状態が検査結果に影響する場合がある。

④質問紙法では、被検者が回答を歪める可能性がある。

⑤投影法では実施や結果の解釈に熟練を要するため、客観性に疑念が生じる場合がある。


心理検査は有用な長所もありますが、結果を絶対視しないことも大切です。


大切なことは観察、面接でもそうですが、心理検査でも診断と治療はともに進んでいるということです。

心理検査を通して、クライエントと良い信頼関係を結び、理解を深め、またクライエントにとっても、検査を通して自分をまた別の角度で見つめたりと、治療的な要素を含むことも多いのです。


心理検査を通しても、クライエントと心の通った関わりを持つように心がけ、良いアセスメントにしなければなりません。

関与しながらの観察 心理カウンセリングにおける観察法

カウンセリングで最初にクライエントの方の問題を分析する心理的アセスメント、それを行う上で面接、心理検査、情報収集と並んで必要なことが行動観察です。

カウンセリングにおける観察

心理カウンセリングにおける観察とは、クライエントに関わる情報を五感、特に視聴覚を通して集める行為で、その情報を体系的に整理、分析することで、クライエントとクライエントの抱える問題について外的側面のみならず内的側面にも迫るアプローチです。

会話などの言語的回答に依存しないでのデータ収集が可能なため、たとえば言語能力に乏しい乳幼児や子供などに特に有効に活用出来ます。
カウンセラーはその手法である観察法にも習熟している必要があります。

観察法

心理カウンセリングにおける観察法は、4つの視点に分けることが出来ます。

①観察状況にどれだけ人的操作を加えるか
②現象をどのように切り分け選択するか
③観察したものをいかに記述するか
④観察する人や対象にどのようなスタンスでかかわるか

①の観察状況においてどれだけ人的な操作を加えるかにおいて、自然に起きる行動をありのままに観察する方法を自然観察法と呼びます。

対して、観察者が意図的に状況や環境を操作して対象の行動や反応を観察しようとするのが実験的観察法となります。

②の視点において、特定の場面においての観察を場面見本法、特定の出来事に注視した観察を事象見本法、特定の時間帯に注目した観察を時間見本法と呼びます。

③の視点において、起こった行動や出来事を直接的に書き留めていく方法を行動描写法、それに対して起こった行動を設定されたカテゴリに分けていくものをカテゴリ・チェック法と呼びます。

④の視点において、観察者が観察される人との関わりを持たない方法を非交流的非参加観察法、あらかじめ観察者に役割を理解してもらって行う観察を消極的参加観察法、たとえば子供の遊び相手として参加することで同時に観察するような場合を交流的参加観察法と呼びます。

これらの観察法を状況に応じて使い分け、クライエントや問題について理解することがカウンセラーにとって必要な技術になります。

関与しながらの観察

観察というと観察をする側とされる側に分かれているように感じますが、観察といっても人が人と関わる以上、どちらにも影響が生まれます。

新フロイト派のサリヴァンは客観的に観察する対象を対象として扱わず、治療者である自分を含めた上で観察をする態度を主張しました。これを関与しながらの観察と呼びます。

観察する相手は観察する物では決してなく、心を持った人です。このような姿勢が人と向き合う上でカウンセラーには重要なのです。